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AI社員の作り方は2つのコツで決まる——11万件の実験が示した「設計図」と「着任試験」

佐野泰喜

歯科AIナビ編集部

· 📖 約7分

AI社員の作り方は2つのコツで決まる——11万件の実験が示した「設計図」と「着任試験」

ChatGPTやClaudeに「発注係」「掲示物係」と役割を決めて仕事を任せる「AI社員」。作り方のコツは、作る前に要る材料を書き出す「設計図」と、作ったらわざと間違えて聞く「着任試験」の2つです。AIに仕事を教える練習課題を11万件作った研究(WorkFactory)の結果をもとに、医院でそのまま使える手順を解説します。

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テーマ: 歯科医院のAI導入ガイド | すべてのテーマ

AIがAIを育てる——11万件の練習課題を作った実験

2026年10月、中国の研究チームがAIに「仕事」を教え込むための練習課題を大量に自動生成する仕組み「WorkFactory」を発表しました1。612の職業にまたがる112,686件の課題を作り、その課題を先生役のAIに解かせた記録で、生徒役のAIを訓練しています。課題データの一部とモデルは公開されています2。

訓練後の生徒AIは、仕事の成果物を人の専門家の成果物と比べる採点(GDPval-AA。チェスのレーティングと同じ考え方の点数)で879点から1565点に伸びました1。

注目すべきは、11万件の課題を作ったのも、課題の不備を見つけて直したのも、すべてAIだという点です。人は一人も介在していません。

課題を作って直す流れ

  • ●AIが仕事の課題(依頼文と資料)を作る
  • ●何も知らない別のAIに、その課題を解かせてみる
  • ●解けない所を報告させる(例:「C社の見積に送料が含まれるか書いていないので比較できません」)
  • ●報告をもとに別のAIが資料を直す(例:「送料は1箱0.15ドル、別途」と1行足す)
  • ●直しが答えを書き込んでいないかを、また別のAIが審査する
  • ●通った課題だけを先生AIに解かせ、その記録で生徒AIを育てる

分かったこと1:数は効く。ただし最初がいちばん効く

課題の数を増やすほど生徒AIの点数は上がりました。ただし伸び方は一様ではありません。最初の5千件で447点伸びたのに対し、7万5千件から11万件に増やした区間では13点しか伸びていません1。3万件の時点で、最終的な伸びの約9割に達しています。

ゼロの状態からまず数を作るのは正しい。一方で、数だけを増やし続けても、どこかで頭打ちになる。これが1つめの結果です。

ブロック玩具で作った工場のラインで、検査ロボットが並んだロボットを1体ずつ虫めがねで調べているイメージ
ブロック玩具で作った工場のラインで、検査ロボットが並んだロボットを1体ずつ虫めがねで調べているイメージ

分かったこと2:同じ数なら「試して直した」課題のほうがAIは育つ

研究チームは、同じ5千件で作り方だけを変えて比べています。資料を並べただけの課題で育てたAIは1245点。要る情報を先に設計図に描いてから作った課題では1293点。さらに別のAIに試させて直した課題では1326点でした1。合計で81点の差です。

何が違ったのか。試して直した課題は、「答えを出すのに必要な前提がAIの見える場所に全部ある。しかし答えそのものは渡されていない」状態になっています。論文はこれを「解像度が高い」と表現しています。

逆に前提が1つ欠けていると、AIは勝手に仮定して進めます。送料の記載が無い見積を渡されたAIは「送料込みだろう」と決めて計算を続けました。悪意はありません。しかし、その仮定が1つ混ざった仕事をお手本にしてはいけない、というのが研究チームの立場です。

医院のAI社員も同じ——役割だけ渡すと「勝手に埋める」

ChatGPTやClaudeの「プロジェクト」機能に役割と指示を置き、「発注リストを作る係」「院内掲示物を作る係」として仕事を任せている医院が増えています。本記事ではこれを「AI社員」と呼びます。

AI社員に役割だけ渡して「よろしく」と言うと、材料が足りないまま浅い理解で、勝手に埋めて仕事を進めます。論文の「送料が書いていない見積」と同じことが医院でも起きます。

だからAI社員を作るときは、コツが2つあります。作る前に「設計図」、作ったら「着任試験」。先に描いて、後で試す。この順番です。

歯科医院のChatGPT使い方で紹介している基本の頼み方と組み合わせると、効果が安定します。

コツ1:設計図——作る前に「要る材料」を全部書き出す

設計図といっても箇条書きで十分です。「最後に出すもの」「それに要る材料」「材料ごとに、渡すのか、AIに計算させるのか」の3つを書きます。

例:消耗品の発注リストを作る係

  • ●最後に出すもの:来週発注する品と数の表
  • ●要る材料:今の在庫数、品ごとの最低在庫数、発注先と単位、先月の使用量、予算の上限
  • ●渡すもの:在庫数、最低在庫数、発注先と単位、先月の使用量、予算の上限
  • ●AIに計算させるもの:発注する数、予算に収まるか

先に書くと「最低在庫数をまだ決めていない」と、作る前に気づけます。作ってから気づくと、AIはすでに勝手に決めて動いています。

この設計図づくり自体もAIに頼めます。「この仕事を任せる前に、要る材料を全部表にして」と伝えれば、たたき台が出てきます。

コツ2:着任試験——わざと間違えて聞き、突っ込んでくるか見る

AI社員を作ったら、わざと間違えたことを言って頼みます。研究チームが「何も知らない別のAIに解かせて不備を報告させた」工程の、医院版です。

着任試験の例

  • ●在庫表に無い商品名で「これを10箱」と頼む
  • ●ありえない数で「グローブを3万箱、今日中に」と頼む
  • ●その社員の仕事ではないことを「シフト表も作って」と頼む

「その商品は在庫表にありません」「数が大きすぎます。確認させてください」と突っ込んでくれば合格です。そのまま作り始めたら不合格。足りない材料か、「違うことを言われたら先に確認する」という決まりが抜けています。

不合格なら、足りない材料や決まりを指示に1行足して、もう一度聞く。この繰り返しがAI社員を「育てる」ということです。研究チームが11万件に対して行ったことを、医院では手で、1人ずつ行えば十分です。

注意点と、今日からやること

AIに渡す材料に患者さんの名前や診療内容が入っていたら、必ず消してから渡してください。着任試験の問題にも患者情報は使いません。患者さんに関わる仕事をAIに任せたい場合は、この手順をそのまま使わず、院内の情報管理のルールを先に確認してください。

スタッフに関する情報で試験をする場合も、本名ではなく役職や「Aさん」で足ります。

設計図を作らせるプロンプト、指示欄のひな形、確認役AIに試験をさせるプロンプトは、この記事の続き(歯科AIカレッジ会員限定)に貼るだけの形で置きました。合言葉を入れると、そのまま続きが読めます。

3つのステップ

  • ●今日:いまあるAI社員に、わざと間違ったことを1つ言ってみる。流されたら、足りない材料を1行足す
  • ●今週:新しくAI社員を作るときは、先に「出すもの・要る材料・渡す/計算させる」の3行を書く
  • ●来月:月1回、着任試験を1問だけやる。AIの版が変わって急に流されるようになったことに気づける

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この記事のまとめ

AIに仕事を教える課題を11万件作った研究では、数は最初がいちばん効き、同じ数なら「設計図を描いて、別のAIに試させて直した」課題のほうがAIが育ちました。医院のAI社員も同じです。作る前に要る材料を書き出す「設計図」、作ったらわざと間違えて聞く「着任試験」。先に描いて、後で試す。この2つのコツで、勝手に埋めるAI社員ではなく、分からないことを確認してくるAI社員になります。

よくある質問

Q.AI社員とは何ですか?

A.ChatGPTやClaudeの「プロジェクト」などに役割と指示を置き、特定の仕事(発注リスト作成、院内掲示物の下書きなど)を継続して任せる使い方のことです。本記事での呼び方で、公式な用語ではありません。

Q.設計図は毎回書く必要がありますか?

A.AI社員を1人作るときに1回書けば十分です。仕事の内容が変わったときや、着任試験で不合格が出たときに見直します。設計図のたたき台はAIに頼んで作らせることもできます。

Q.着任試験に合格すれば、仕事の出来も保証されますか?

A.されません。着任試験は「分からないことを勝手に埋めず、確認してくるか」を見るものです。仕事の出来は別に確認が必要で、外に出す文書や患者さんに関わる判断は、必ず人が最終確認してください。

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Sanoの一言解説

僕がよくやる着任試験は、うちの社員のことをAIに分析させるとき、わざと違う社員の名前を言ってみることです。深く理解しているAIは「それ、違いますよ」と返してきます。浅いAIは、そのまま分析を始めます。一発で分かります。研究チームの言う「解像度が高い」を僕の言葉にすると「深い理解」です。細かなところまで分かっていて、実践的で、数字でも裏が取れている状態。AI社員は、まず数を作る。ゼロの人はとにかく作る。でも1人1人は、医院のことを深く理解した社員に育てる。AIがAIを育てる時代です。僕らも、自分のAIを育てる側に回りましょう。

参考・出典

2件
  1. [1]

    Zeng et al. WorkFactory: Turning Professional Intents into Executable Work for Scalable Agent Training(arXiv:2610.37161、2026年10月27日公開)

    https://arxiv.org/abs/2610.37161参照: 2026-11-03
  2. [2]

    IQuestLab/WorkFactory(データとモデルの公開リポジトリ)

    https://github.com/IQuestLab/WorkFactory参照: 2026-11-03
佐野泰喜
佐野 泰喜監修・編集長

歯科医師・MBA / 株式会社HAMIGAKI 代表取締役

歯科医師としての臨床経験をベースに、AI×歯科経営の実践研究を行う。歯科AIナビを運営し、全国の歯科医師・院長へのAI活用支援に取り組む。

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